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「マインドはロック!」 学校図書館にぴっかりカフェを作った松田ユリ子さん


既成概念を壊して、学校図書館にぴっかりカフェを作った

*学校司書の松田さん クリックで拡大

松田ユリ子さん  
 神奈川県立田奈高校 学校司書
 NPO法人パノラマ理事 

●ざっくりいうと…

・自分が崩壊して、生徒に近づけた
・飲食解禁の斬新な図書館活動
・異分子として叩かれる
・教員とも協力できるようになる
・学校司書の後継者を育てたい


 神奈川県立田奈高校では、週に1回、学校図書館でぴっかりカフェが行われている。当日は、軽音楽が流れる中、子どもたちは飲食しながらリラックスした時を過ごす。さらに、外部からユースサポートが入り、生徒とコミュニケーションを図りながら、問題を抱える生徒の支援も行っている。このカフェをコーディネートしているのが、学校司書の松田ユリ子さんだ。

 ロック好きの松田さんは、ビートルズのファン。特に、ポール・マッカートニーが好きだそうだ。特別な曲があるのか聞いてみると、「選びきれない」といいながら、少し考えて、彼女はこう言った。

“ポール”派、というのが私の立場です。ジョン(レノン)派じゃないとかっこ悪いと思われようと、ポールは本当にすごい。だから好き!ということを隠さない。そういうふうにしてきた気がする」

 きっとこのコメントが、彼女を表しているのだろう。誰が何と言おうと、自分が好きなことは好きとはっきり言い、行動してきた。

自分が崩壊して、生徒に近づけた

 そもそも松田さんの司書への道は、児童文学好きから始まっている。学生のときに石井桃子さんの著書『子どもの図書館」に出会い、児童図書館員を目指した。

*「ぴっかりカフェ」でくつろぐ生徒たち

 日本には児童図書館員という仕事が根付いていないことから、まずは、司書として公共図書館への就職を希望する。80年代前半に司書を専門職として募集している自治体は少なかったが、運良く神奈川県の司書として採用された。

 ところが、配属されたのは高校だった。学校図書館を希望していなかっただけに、当初はがっかりしたそうだ。
「高校の学校図書館というのは受験勉強する場所というイメージしかなかったから、最初は高校の司書はやりたくなかった。図書館員を目指している人や、大学の先生でも、学校図書館員について知っている人は少なかったし、自分もそうだった。だから、何をしたらいいのか最初は分からなかった」

 意に反して配属された高校は、大変なところだった。山形県の進学校から都会の1200人もいる高校に行った松田さんは、大きな衝撃を受けた。

「志望校に入れず滑り止めで入ってきた子、家庭にいろいろ問題を抱えている子、多様な背景を持った生徒たちの熱気が渦巻いていた。ケアが必要な子たちといきなり文化的な衝突をして、自分がまず崩壊したんです。そこで拒否して教師をやめてしまう人もいっぱいいたけど、私は違った。自分が変わって、生徒に近づいていくことができた。自分でも意外だった。だから面白かったんだと思う」

 高校生と接しているうちに「はまってしまった」と松田さん。
 「学校図書館はこうやるべきとか、マニュアルがなかったからこそ、自分で試行錯誤することができた時代だった。決まりがないから、自分で作れた。生徒と一緒に作りあげていくことに、すごく目覚めたんです。自分が工夫したらそれが跳ね返ってくるということで、高校生という生き物が楽しかったんです」

斬新な図書館活動

 よく学校図書館では館報を作るが、普通の物ではつまらないということで、ロック雑誌「rockin’on」をまねした冊子を生徒たちと作った。その名も「music on」とつけた。

今話題の旬な本がいっぱい。

 「レイアウトもまねして、いろんな好きなことをやった。海外も含めて、好きなアーティストに、あなたに影響を与えた音楽はなんですかみたいなアンケートを出したり。20通だして半分くらいは返ってきました。海外のアーティストからも返事があった」

 図書館内で飲食を解禁して、毎日ロックが流れた。ロック好きやバンドをやっている生徒がいっぱい集まり、文化祭ではロックの部屋をやったり、新しいことをどんどんやっていった。

「生徒が書庫にドラムを持ち込んで練習していて、その騒音がすごかった。そういうことも、生徒の完成度を上げたパフォーマンスにつながっていくことが、私の快感だった。人が来ない学校図書館というイメージを、今でもそうなんだけど、くつがえしたいなと思っているんです。そこから生まれるものがすごかった」

 松田さんとの活動を通して、いやいや学校に通っていた生徒が、元気で前向きな姿へと変貌していった。
「生徒の変化はすごいです。大人の変わり方と何百倍も違います」と彼女は強調していた。

異分子として叩かれる

 当然のことながら、周囲の教員からの反発がすごかった。
「私は教え込むのは大嫌い。一緒に考えようという感じでやっていた。そういう中で、昔ながらの教師を目指してやってきた人と、同僚性を保つのは大変だった。異分子で、当時は本当に叩かれまくりでした。会議の席で『生徒を飼っている』とまで言われながら、戦ってたんです。」

 それでも、味方してくれる教員もいて、励まされたこともあった。
「分かってくれる人もいた。一番辛いときに言われたのは、楽しそうに仕事をしていれば、人は絶対に寄ってくるよって」

 一方、保護者やPTAは味方だった。子どもたちが喜んで図書館に通っていたため、喜んでくれたそうだ。
 すっかり学校図書館が気に入った松田さんは、以後4回の異動時にも学校を希望。今、5校目の田奈高校で仕事している。

 同校の学校図書館で、週に一度ぴっかりカフェをやっていることは、冒頭でも書いた。ユースサポートのNPO法人パノラマや、地域のボランティアが入り、子どもたちと交流し、問題を抱える生徒の相談にも応じている。
 ぴっかりカフェは、全国的にも革新的な学校図書館のあり方ということで注目されている。

 ぴっかりカフェについての“得る”Cafeレポートはこちらへ

教員とも協力できるようになる

 当初、教員とはまったく違うアプローチで生徒と接していたため、松田さんのやり方はなかなか理解されなかった。
 「教員からは何でもありで、何でも生徒に許しちゃう人だと思われていた。こういう人が学校にいるのはやっかいだと思われるように、自分で仕向けてしまった。今振り返るとそう思います。若いときはそれで叩かれた」

 その後、長い時を経て少しずつ教員とも理解し合えるようになっていった。
 「あのころは、学校図書館としてのポリシーを言語化してなかった。目の前の子が楽しんでいるからいいやと、夢中でやっていた。今は、先生方と相談しながら、あの子は実はこうなんですよと言って、一緒に支援しようとやっている。やっと、そういうことができるようになりました」

 かつては敵対していた人が、今では理解してくれたそうだ。

「最初の学校で私を批判的に見ていた人が、今は校長になっていたりする。その人がぴっかりカフェのことを指して、『松ユリさん(松田さん)がやりたかったことは、これなんだと分かりました』と言ったと、その学校の司書さんから聞いたんです。当時の高校でやっていたこと。飲食解禁にして、音楽をばんばんかけてやっていたことが、今ではオフィシャルに素晴らしいって言われているんです。敵対していた人に、これがやりたかったんですねって今頃言われるという、この面白さ!」と言って松田さんは笑っていた。

 ロックも最初は「なんだ、これ!」と叩かれていたが、今では教科書に載るような音楽になっている。
 そう指摘すると「ほんと、そうですね。当時の自分に言ってやりたい。この人、後で校長になって、認めてくれるよって」と言うと、いたずらっぽく笑っていた。

後継者を育てたい

 松田さんは、ぴっかりカフェのような活動を持続可能にするため、学校司書の養成についても思いを巡らせている。

 そもそも学校司書の仕事が、公共図書館の司書とどう違うのかはっきりしない面もある。司書の資格はあるが、学校司書の資格はない。

*2017年夏、IFLAポーランド大会で、ぴっかりカフェの成果指標についてポスター発表した。クリックで拡大

「学校司書は、学校図書館法にとりあえず位置付いたけれど、これから養成カリキュラムを作るという状況なんです。学校図書館の資料やサービスは、利用者のニーズにいかに合っているかが大事です。毎年必ず生徒の3分の1は入れ替わるし、子どもの教育をめぐる状況の変化は激しい。学校図書館は、常に最先端で転がり続ける必要があるんです。

 これまで、子どもたちと共に独自の道を歩み、オリジナルな学校司書の仕事を作ってきた松田さん。
 「みんなが抱いている司書の“本好きで人嫌いで大人しい”というイメージ、特に“人嫌い”というネガティブイメージを壊したいんです。マインドはロックです!」

 1960年代、ビートルズをはじめとするロックは、それまでの既成の音楽や文化に革命的な影響を及ぼした。
 彼女もこれまでの司書の既成概念を壊し、新しい学校司書のあり方を創造している。

(*写真 松田ユリ子さん提供)
(取材・まとめ “得る”Cafe事務局 いとう啓子)

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