仕事の経験を生かして生物ドキュメンタリー映画を制作した島倉繁夫さん@東京稲城

映像ディレクター・映画史研究家 島倉繁夫さん

●ざっくりいうと

 ・地元で、映像づくりの経験を生かす
 ・身近なところに発見がある
 ・クラウドファンディングに挑戦
 ・上映会&ロケ地散策、DVDを制作


“ヘビ”との出会いをきっかけに

 「ヘビとカラスのバトル」に遭遇!

 2010年の春、三沢川を散策していたときのこと。ヘビとカラスの戦いに遭遇。島倉さんは夢中で撮影して、YouTubeにアップした。すると、その動画はあっという間に再生回数10万を超えた。

「ヘビとカラスのバトル」動画

「外国からも反響がありました。へびは生態系の上位に位置し、ヘビが生息できるということはそれよりも下位の生物がけっこういるはずだ。それらを集めてつなげれば、自分の第二の故郷である稲城賛歌の映画ができるだろう、と思ったんです。」

 こうして、三沢川に生きている生物を探すウォーキング撮影が始まった。

 ところが、そのヘビが島倉さんを悩ませることに・・・。実は、奇しくも島倉さんはヘビ(巳)年生まれという。

 平成最後の正月明けに、ドキュメンタリー映画「三沢川いきものがたり」の制作~上映会、さらに今後の活動などについて、お話をうかがった。

「三沢川いきものがたり」予告編A

「三沢川いきものがたり」予告編B

6年間、ほぼ毎日撮り続ける

〇地元の撮影はずっと続けていらしたんですね。

「仕事で永年映像制作をやってきたものですから、50歳を過ぎてからは、少しは地域のためにその経験を生かしたいと思ったんです。

制作したDVD作品

 三沢川を撮る前の1989年暮れから2006年春までは、尾根幹線の開通で町が跡形もなく変わってしまった記録を撮りました。それは編集に半年かけてDVDにしました。(写真参照)

*注 尾根幹線(南多摩尾根幹線):多摩川に架かる多摩川原橋から、稲城市を通り東京都町田市小山町の町田街道までを結んでいる道路。

 尾根幹線の次に何を作ろうかというときに、ヘビとカラスのバトルに出会って、三沢川と生物というテーマを設定したんです。

 私はこのように、何年もの長期にわたる記録以外に、毎年恒例の自治体主催や市民活動など地域イベントも、四季を通してずっと撮り続けています。

 つまり、日常的なものと長期的な町の変化と、二本立てで撮っているんです。尾根幹線の記録は現役時代の自分の時間を切り裂いて取り組んでいましたが、三沢川の記録は一応現役を退いた後なので気楽にやりました。相手が生物ですからいつ何があるか分からないし、狙って出かけても出会えるとは限らない。とにかく出たとこ勝負ですからね」

〇6年間ほぼ毎日、三沢川沿いの道、約2・5キロを往復して撮影を続けたということですが、大変だったのではないですか?

「里山の生物については多くの人が写真や映画で記録しているけれど、この作品は人の生活圏に棲む生物に焦点を当てているところが大事なポイントなのです。

 ただ、撮影の基本はウォーキングのようなものなんです。だから、今日はどんな生き物に出会えるか、と楽しかったですね。

 里山よりも身近な人の生活圏ということで、三沢川べりをジョッギングしている人や通学の子どもたちなど、生活している人も一緒に撮り込みたかったのですが、顔を映せば肖像権の問題が発生する。もちろん許可を得ればいい訳ですが、すると純粋な様子を得にくくなる。この作品に限らず、ドキュメンタリーではこの点がとても表現力、訴求力を弱めてしまうと思いますね。」

プロが作ったアマチュア映画

〇約50種類と、すごく多くの生物がでてきますよね。びっくりしました。
 それに、普通テレビのドキュメンタリーなどでは途中でタレントが入ったりしますが、「三沢川いきものがたり」はインタビューもクイズも入ってないのに、最後まで飽きずに見ていました。

「ありがとうございます。おっしゃる通りこの作品にはインタビューもクイズもありません。また、最初に完成させたオリジナルでは、ナレーションも私がやっています。

川沿いを散策

 ご承知の通り映画の完成までには、撮影の前後に準備と仕上げの段階があり、それがドキュメンタリーでも総勢何十人もの人たちが関わります。ところがこの作品では、企画から構成(シナリオ)、演出、撮影、編集、選曲、ナレ取り……完パケと、完成まで一人十役。すべて私一人で作り上げたものです。

 実務での私のプロの分野は「企画、構成、演出(監督)」であって、カメラも持たなければ編集や音声のためのパソコン操作をすることもありません。その部分まですべて一人でやってしまったのは、作品の純粋性にこだわったというところもありますが、正直、スタッフを使って作る予算などなかったからです。つまり、思考の部分はプロとして、機材を使う実務はアマとして作り上げた作品…それがオリジナルの「三沢川いきものがたり」なのです。」

〇6年間の膨大な映像を編集するのは大変でしょうね。たくさんのカットの中から使用するカットをどのようにして選び出すんですか?

「もちろん、何千カットも撮影していますから、よく撮れていても、テーマに合わないカットはどんどん捨てていきます。

 今度の作品では、撮影を切り上げた後でシナリオに取り掛かりました。ドラマの場合は”始めにシナリオありき”ですが、ドキュメンタリーではシナリオはあと、という手順は珍しくありません。今度の場合はどんなカットが撮れているかを見極めた後で、それぞれのシーンをどのように繋げたらどういう物語ができるかを考えるわけです。

 まず、撮影した日に関係なく、パソコンに生物単位でフォルダを用意します。コイはコイのフォルダへ。コサギはコサギのフォルダへ。生物以外では春夏秋冬の三沢川を撮影したシーズンごとのフォルダ。人物が入ったカットだけのフォルダ、というように区分するわけです。

 その区分が済むと、今度はフォルダごとにどんな動きが撮影されているかを確認します。

 例えばカワセミのフォルダでは、枝にとまっている、水に飛び込む、魚をくわえて飛び立つ…という具合にアクションを把握して、編集でどのような一連の動きが作れるかを考えます。そしてすべてのフォルダのカットの流れが頭に入ったら、その動きをどのように繋げたらどういったお話が紡げるかをシナリオにしていくわけです。

 今回の作品ではフォルダ数は約60になり、それを元に38シーンのシナリオが完成しました。」

〇作品づくりで困ったことは、ありますか?

 シナリオが完成すればいよいよ編集です。ところが、編集作業に入って間もなく、ハタと手が止まってしまいました。実はこの作品を作るきっかけとなった大事なカラスとヘビの対決シーン。それを、実際の通りにシナリオの冒頭に設定したのですが、ヘビが嫌いな人もいることに思い当たったわけです。

 そこで、周りの女性たちに伺ってみると、「ヘビは嫌い」「ヘビが登場するなら見たくない」ということでした。これには本当に困ってしまいました。

ヘビとカラスのバトル。ヘビの扱いに悩まされた。

 三沢川の生態系上、上位に位置するヘビが登場しなくて、三沢川の生き物たちを語れるか、ということですが、見てもらえなければ元も子もありません。この点については悩みに悩んで、3か月も編集がストップしてしまいました。

 結果としてヘビが登場する「ヘビーバージョン」と、ヘビのシーンを丸ごとカットしたヘビ無しの「ライトバージョン」も作りましたが、幸いなことに、これまでの上映会ではヘビがそれほど嫌われることはなく、ヘビ無し「ライトバージョン」で上映したことはありません。

 それから、撮影していて一番問題だったのは、いつ撮影を切り上げるかということでした。このような撮影では、「もっといいカットを」「もっと珍しいものを」…と際限がないのです。ところがある年、夏になるまで経過してもなかなか生物に出会わない、新しい状況が見られない、ということがあって、これが潮時かな、と思った。それで2015年で切り上げたんです。

 それから3年。今も三沢川を歩くけれど、最近はあまり撮るものはないですね。ときどき撮影したものをfacebookに載せていますけれど。

 映画の終わりに「三沢川に生物がたくさん居た時の最後の記録になりませんように」とコメントを入れているんですが、どうなりますか…。」

2ページ目に続く…

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