「老後資金」「年金不安」の問題
「2,000万円ないと生活が行き詰まるのか!」
「年金100年安心は嘘だったのか!」
テレビを見ていると、蓮舫さんが国会で安倍首相を追及するシーンが目に飛び込んできました。
老後2,000万円問題が、しばらくメディアで大きな話題となりました。
しかし、分かりやすい説明はあまりなく、不安が増した人も多いのではないでしょうか。
「老後資金」と「年金不安」。
今、注目されているテーマについて掘り下げて、解決策を考えていきたいと思います。
★金融庁の報告書で取り上げられた「老後2,000万円問題」について
「金融審議会市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」(令和元年6月3日)を参照。ここをクリック
老後2,000万円不足の根拠
総務省の家計調査年報に、「高齢夫婦無職世帯」の家計収支についての統計があります。
金融庁の報告書では、「世帯主65歳以上,配偶者60歳以上の高齢夫婦無職世帯」のデータを基に、年金生活を送っている高齢夫婦無職世帯の平均的な家計収支を分析しています。
「高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる」(報告書の10ページ)
「収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20 年で約1,300 万円、30 年で約2,000 万円の取崩しが必要になる」(報告書の16ページ)
この報告書に示された2,000万円という金額が、国会で大問題になったわけです。
私は、そもそも総務省の家計調査年報で、これから退職後に年金生活を送ろうと考えているサラリーマン世帯の必要となる「老後資金」を正確に推測できるのか、疑問に感じています。
家計調査の平均にはブレがある
ひとつ目の問題点は、毎年行われている家計調査年報の家計収支に関するデータは、全国から約9,000世帯という一部の世帯を調査して全体を推計していること。
全体を推計しているので誤差が生じ、得られた結果は推測の域を出ないことです。
今回問題となった報告書で使われている2017年度の家計調査年報の統計データでは、高齢夫婦無職世帯の「月間の不足額」は54,519円です。(↓図を参照)
直近5年間で、家計調査年報の高齢夫婦無職世帯の「月間の不足額」を調べてみると、最大の不足額は2015年度の62,326円で、最小の不足額は2018年度の41,872円です。
【参考データ】
各年度の「月間の不足額」を基に、金融庁の報告書と同じ計算で老後30年間の不足額を求めました。
◎2014年度の「月間の不足額」61,560円×12ヶ月×30年=約2,216万円
◎2015年度の「月間の不足額」62,326円×12ヶ月×30年=約2,243万円
◎2016年度の「月間の不足額」54,711円×12ヶ月×30年=約1,970万円
◎2017年度の「月間の不足額」54,519円×12ヶ月×30年=約1,962万円
◎2018年度の「月間の不足額」41.872円×12ヶ月×30年=約1,507万円
このように、毎年公表される家計調査年報の「月間の不足額」の平均値はブレが大きいのです。
老後の30年間で必要となる「老後資金」は、最小値で約1,507万円から最大値で約2,243万円と、その差額は736万円もあります。
これ程の大きな差異が発生する原因について、明確な分析結果は示されていません。
サラリーマン世帯の老後資金の平均的な不足額を算出したものとしては、数字のブレが大きすぎると思います。
年齢が上がると支出は下がる
ふたつ目の問題点は、家計調査年報の無職高齢夫婦世帯のとらえ方です。
世帯主65歳以上,配偶者60歳以上の高齢夫婦無職世帯全体をひとまとめにして、不足額を30年間で2,000万円であると分析しています。
これでは、『高齢夫婦無職世帯の消費支出は,年齢が高い世代ほど低くなっている』という傾向が反映されません。
私は、今回の報告書のように「年金生活している世帯全体をひとまとめにする」やり方では、老後資金を考えることはできないと思っています。
総務省の5年ごとに実施される消費実態調査の「世帯主の5歳ごとの年齢別月間の収入と支出」のデータで、65歳以降のライフステージごとの不足額の推移を分析してみました。(↓図を参照)
「ふたり以上の世帯で世帯主の年齢が65歳以上の高齢無職世帯」の家計収支のデータから読み取れる内容は、
〇年齢が高くなるに従って、消費支出は低下する。
〇消費支出は低下し続けて、85歳以上の世帯になると若干黒字化する。
〇収入は年金収入が90%以上なので、大きな変化はない。
参考図のデータから読み取れるポイントは、特に60代後半、及び70代前半の赤字額が大きいことです。
「老後資金の問題」の解決策のひとつとして、この時期に不足額を埋める程度は働き続けて収入を増やすことが考えられます。
働き続けることで、金融庁の報告書にある家計収支の「月間の不足額」の問題は大きく改善すると思います。
テレビなどで議論されている内容では、サラリーンの「老後資金」「年金不安」の問題に十分応えられていません。
次回からはこの問題に対する解決策について、さらに考えていきます。
山木戸 啓治 Keiji Yamakido
<プロフィール>
上級生涯生活設計コンサルタント
一級ファイナンシャル・プランニング技能士
CFP(日本FP協会)
社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員
平成15年より、ファイナンシャル・プランナーに就任し、生涯学習センター・公民館・大学の公開講座などで生涯経済設計の講師を務め、平成16年度・17年度には福山大学経済学部客員教授を兼務すると共に、企業の退職準備ライフプランセミナー、及び地方公務員の退職準備・生活充実ライフプランセミナーなどで講演活動を行う。
平成22年7月に定年退職し、その後も継続してライフプランセミナーの講師として活動中。
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