障害者・健常者を問わずアートを通じて心を癒す「あーとすたじお源」の福家健彦さん

福家健彦(ふくや たけひこ) 「あーとすたじお源」代表

ものづくりは、心の治癒につながる

ざっくりいうと
 ・院内学級で長期入院の子どもと出会う 
 ・ものづくりを通じて心の治癒をめざす
 ・称賛されるより、結果を出したい
 ・今後の目標は、心の居場所づくり

作家の土岐健太さんと福家さん

 横浜で障害者・健常者を問わず、作品づくりで個性を発揮するアトリエ「あーとすたじお源」を運営している福家健彦さん。
 3月の横浜に続いて、11月に銀座で展示会を開催した。

 「障害者作品ということで一種のお情けや同情ではなく、純粋なアートとしての真価を社会に問う」というコンセプトで、アートの本場の銀座に進出した。

 銀座のギャラリーで、福家さんにアトリエを設立した訳や、今度の目標などをうかがった。


プロフィール
1967年、横浜生まれ
多摩美術大学日本画専攻を卒業後、制作と共に建築業や様々な仕事を経て教員に転身。現在は、特別支援学校の教員。2014年に横浜市神奈川区を活動拠点に障害の有無を問わないアトリエ「あーとすたじお源」を設立する。


長期入院の子どもとの出会い

銀座のギャラリーに並べられた作品 クリックで拡大

 7年前、横浜市内の大学付属病院に入院する子どもたちが通う院内学級で、担任をしていました。そこでの子どもたちとの出会いが、アトリエをやろうというきっかけになりました。彼らは様々な事情で入院を余儀なくされる子どもたちで、院内学級に安らぎを求めてくることがありました。

 本来は学習を保証しなければなりませんが、子どもたちは学習を受けられるような心の状態ではありませんでした。そこで僕が考えたのが、彼らの心を治癒していくことでした。入院が長いと、心の負担が大きく影響するので、まずは心を治癒することが一番大切だと思ったのです。

 僕自身の考えですが、病院では医者は体を治癒すること、院内学級の教員は心を治癒することが役割だと気づいたのです。

 彼らの心を治癒するものは何だろうと考えました。彼らと一緒に過ごす時間の中で、実際に手を使って夢中で何かを作ったり、描いたりすることで、彼らは一瞬でも辛い苦しかった自分を忘れることができる、そして、その時間をどれだけ生み出せるかということが私の役目であり、彼らの心の治癒に繋がると思ったのです。

 ものを作ることで夢中になり、無心になれると、その時の苦しみや背負っているものを忘れることができます。

 そこで僕は、ものづくりの時間を充実させました。国語や算数も、ものづくりにつなげていくことで学習の保証に努めました。
 自由に夢中で絵を描いたり、立体を作ることで子どもたちの表情が生き生きとしてきて、それぞれの抱える症状が回復するような変化も見られるようになりました。私は「これだ!これを現代社会の中でやろう!」と思いました。

 学校とか、教員という決められた枠の中で行う指導や評価が最大限の効果を期待できないならば、自分で無限に良いものを作り出す団体や組織を作ってしまえと思ったのです。

 「世の中にあったらいいな、あればいいのに」という現代社会の抱える問題や課題に応える活動がしたい、それが僕の本心であり、僕にとっても本当にやりたいことのできる、みんなにとっても束縛のない好きなことができるアトリエだったのです。

ものづくりから心の治癒へ

作家の土岐さんの作品 クリックで拡大

 アトリエでは指導しない、教えない、評価しないということをコンセプトにしています。それは院内学級の子どもたちから学びました。

 他者の指導や評価は作り手の感性を無神経に染めてしまいます。せっかく素地という無限の伸びしろがあるのに、それを殺してしまう恐れがある。感性は他者が触れてはならないものであり、最も尊重され、本人が自然に育むものなのです。

 障害をなくすことはできない。でも、心を治癒する、障害を緩和する、障害を何かに変えることはできると直感したのです。
 例えば、自閉症の重度障害の子どもが何かを作ることに夢中になると、その障害特性を他のものに変えてしまったり、または障害の程度を緩和することがあります。
 
 アトリエを設立する一番の趣旨は、心の治癒、障害の治癒です。
 私が障害者に限らず健常者も一緒に制作しようと言っているのは、僕たち健常者と思っている人たちも何かしらの不自由や欠陥を抱えるという意味で、同じ障害者だと思っているからです。

 誰もが何らかの障害を抱えていたり、心に傷や病を抱えているならば、障害者、健常者を問わず、一緒にものづくりをして心を治癒していきませんか、この生きづらい社会で一緒に心を治癒して生きていきましょうということだったのです。

 ものをつくることは、生きる力に還元されます。それは生きる源です。ものをつくることが生きる源であってほしいと願い「あーとすたじお源」という名前にしました。
 だから、上手いとか下手とかではなく、何かを作ったり、描いたりすることで、生きるための根源エネルギーに変わってくれたらいいし、制作が生きる源になればいいなと思うのです。

称賛されるより、結果を出したい

 これは僕のライフワークです。今はボランティア活動ですが、将来的には、事業化できたらいいと思っています。僕たちスタッフに収益はなくても、メンバーたち(絵の作者)に結果をもたらしたいのです。

 とても素晴らしい、いい活動ですねと称賛され褒められるボランティア活動は、僕たちに必要ありません。求めていません。それよりも常にベストを尽くし結果を出すこと。メンバーが生み出す作品を社会や一人でも多くの人に認めてもらい、購入してもらうという結果にこだわります。

 彼らへのダイレクトな自立支援となるからです。彼らの作品がアートしとして認められ、対価に変わるなら、それは彼らの生活の糧となり、生きる力に直結するのです。彼らの自立支援の一役を担うという、僕たちの現代社会へのチャレンジなんです。

 ボランティアという概念を崩したいと思っています。ボランティア団体は疲弊して消滅していくケースが多い。利益や収益はないけど奉仕の精神で素敵な活動と褒め称えあうのではなく、それよりも利益や収益という生きる上での結果を出したいのです。僕たちは称賛はいらない、結果を出すボランティア団体でありたいと思っています。

 だから、質を落とさないし、妥協は許さない。今回、作品の値段付けも、何度も審査して見合った値段をつけました。社会的にも絵画の基準価格はあるので、それを考慮してつけました。出品メンバーのレベルと身の丈にあった値段をつけています。

横浜の展示会の様子 クリックで拡大

好評だった横浜の展示会

 3月に横浜の民家ギャラリーで展示会を行ったときには、50点くらいの作品が売れました。彼らにとっては、今まで手にしたことのない額だったので、親御さんと何度も連絡をして、管理やサポートの責任をしっかり持ってもらうことを確認して渡しました。

 横浜のときは、地域の人たちが大勢来てくれました。障害者なのにすごいねと、褒め称えになるのかと思ったら意外に違っていました。作品が純粋にいいからほしいと言ってくれて、地域の人たちがたくさん買ってくださった。とても意外でした。購入者は高齢者の方も多かったですね。

 この展示で、あーとすたじお源の活動にも興味を持ってもらえて、次回の展示もお知らせくださいと言われました。

アートの本場、銀座に進出

銀座のギャラリーにて

 横浜のときは、まずは横浜の地域の人たちにあーとすたじお源の活動とその存在を知ってもらうことが目的だったので、あえて地域の民家でやったのです。

 次のステップとして、日本のアート市場でもあり、作品の価値を厳正に問うに一番適した銀座にしました。

 横浜の小さなアトリエの僕らにとっては、とても大きなチャレンジです。銀座は国際的な観光地でもあるので、海外の人たちも作品を目にします。あーとすたじお源のメンバーの作品をどう評価するのかとても楽しみです。

今後は心の居場所をつくりたい

 うちのアトリエの発祥は、心の治癒を目的に始まったけど、最終的にはみんなの居場所づくりをしたいのです。

 今、現代社会の生きづらさは誰もが感じていて、僕もあーとすたじお源のメンバーも同じであって、みんな自分の居場所を探しています。うちのアトリエは、絵を描かなくてもいい、ここに居たい、ここにいると安心する、ここに来たいと思える場所でありたい。

横浜の展示会の様子 クリックで拡大

 最終的には、作品を販売するとか、制作至上主義ではなくて、描かなくてもここに来たら心がホッとして休まる、そういう心が治癒できる場所として、心の居場所としての拠点でありたいと思っています。

 今後は 拠点を持ちたいと思っています。今は公共の会議室を借りて活動しているので、自分たちの場所で安心して、いつまでもいられる場所がほしいです。

 そこを地域に開放して、地域の人たちに還元することで、ここはいい場所だね、いつも安心する、こんな場所が地元にあってよかったと思ってもらえるような。そんな拠点、心の居場所、僕たちの基地を作るのが目標です。

 今後も発表や展示は社会的発信としてやっていきますが、作品が認められて収益が上がることが一番の目的ではなく、この人たちの心が安堵できる居場所を作っていくことが一番大切なことなんだと思っています。 

あーとすたじお源のHP

★銀座展の記事はこちらへ

★横浜展の記事はこちらへ

(取材・まとめ 得る”Cafe”サイト管理人、a-Nest会長 いとう啓子)


 

Similar Posts:

関連記事

  1. 参加者募集:生きている人たちを「本」に見立てて「読者」に貸し出すイベント@明大

  2. 留学生・学生が企画した国際交流フェスタ「Asia Week」@立命館大学

  3. 2/11 第8回はままつグローバルフェア@浜松市

  4. 国際協力NPO

    イベント「NPO創立者と考える!みんなで広げる国際協力のはじめの一歩」@東京

  5. イベント情報:多文化社会におけるアートのチカラ@東京藝術大学

  6. “みつばち”でコミュニティをつくる サラリーマンでマンション養蜂家 児島秀樹さん@東京調布市

  7. レポート:障害特性をアートに換えて生きる@東京銀座

  8. 参加者募集:公開講座「障がいと笑い」コント集団「エムズトリック」も登場

  9. <10代向け>みんなで語ろう!LGBT@東京

PAGE TOP